僕的には墓地のほうがマシだと思うのですが。

もう夏も終わりに近づいているのでしょうか?東京でも日の入りがなんだか早くなったような気がします。


さて、今日は自宅から自転車で元カノの住む町まで行ってきました。と言っても、元カノとの遭遇を期待していたわけではなく*1TSUTAYA東大和店にしかないDVDを借りるのがその目的だったのです。
しかし既に出払っていて借りられませんでした(涙)


府中街道のゆるい上り坂をソロソロと進み、五日市街道のすこし北を平行して流れる玉川上水沿いをサイクリング気分で走ります。
玉川上水は江戸時代に幕府の発令によって成された治水工事の産物です。古代の火山灰が降り積もった関東ローム層*2は非常に水はけがよく、また砂を主成分としていたために工事は難儀をきわめたそうです。


その玉川上水を僕がチャリ*3を走らせ立川通りに差し掛かろうとした時、突如町並みの雰囲気が変わりました。
住宅のそこかしこに、まるで学生運動時代のようなハンド・メイド感あふれる看板が立っているのです。エジソンが発明したというベニヤ板*4を白く塗り、その上に赤や青でデカデカと書かれている内容は、やはり昭和40年代の再現でした。


安楽寺ハ即時撤退シロッ!』
『静林荘跡地、墓地建設反対!!』
玉川上水の景観を守れ!!』


3枚も見れば事の次第がおおよそ把握できる実に明快な主張がそこには踊っていました。どうやら静林荘という建物が経済的に立ち行かなくなるか何かして潰されることになり、その跡地に安楽寺とういうお寺さんが墓地を敷こうという。で、ご近所の人たちがそれに反対して運動を起こした、というものらしいのです。


たしかにイキナリ自分の住む家の隣が墓地になったらイヤだけど。。

そんな怒りの看板を横目にさらに玉川上水をのぼっていくと、件の静林荘が見えてきました。静林荘はなんともウッソウとした木々に覆われた薄気味のわるいお屋敷で、その入り口には『ご休憩:●●円、ご宿泊:●●円』さらに大きな『空』の看板が。

どうやら和荘のラブホテルのようです。うら寂しい国道沿いなんかによく見かける流行らないタイプのその装いと、手入れの行き届いていない施設は、さきほどの僕の推理(?)を強く支持するものでした。


でもなぁ。寂れたラブホテルと墓地だったらどちらが玉川上水の景観を損ねるだろうか?前者だと思うなぁ。なのになんで、こんなにも反対運動が盛んなんだろう?


ここで地価のお話を少ししましょう。毎年、新聞やテレビなどで発表され話題となる「地価」というもの。六本木ヒルズの1〓あたりの土地の価格は日本一高いとか、アレのことです。

この地価というものは、その土地の人気度に比例するひどく曖昧なものです。
昔は衾(ふすま)*5と呼ばれ、単なる大根と飼料の産地でしかなかったのに名前を改名したことで今や高額所得者の聖地となっている「自由が丘」だって、フスマのままだったら絶対憧れの街にはならなかったことでしょう。
事実、駅名をフスマにしようという計画もあったそうですし↓
http://www.city.meguro.tokyo.jp/info/rekishi_chimei/category/chimei/seibu/04.htm


だから商店街はやたら「銀座」を名乗るし、新興住宅地は「●●ヶ丘」になるのですが。とにかく地価にとってイメージというものはスゴク大事なのです。


そこで先ほどの玉川上水のお話。一般のイメージの悪さはラブホも墓地を五十歩百歩だけど、不動産の視点から見るならふたつは月とスッポンなのです。
ラブホは繁華街の象徴とされるのに対し、墓地や神社仏閣は非産業圏の象徴です。もし墓地が近所に出来れば地価は下がります。
住民にとっては自分の土地の価値が知らぬ間に下がるということです。つまり資産の価値的目減りですね。
アパートの大家さんは家賃を下げざるを得ないでしょうし、新しく建売り住宅を売っても、利幅は小さくなります。土地を売ろうとしている人にとってはまさに青天の霹靂。

そう。住民にとって『景観うんぬん』はじつは二の次、三の次で、本心は自分の土地の資産価値を維持することにあるわけです。
それが悪いとは言いませんが、だったら立て看板にも正直に『玉川上水の地価を守れ』と書いたほうが効果的なのではないか、と思う夏のある日でした。

*1:たぶんこの時季は岐阜に帰省中でしょうし

*2:そのなかでもこのあたりは武蔵野ローム層と呼ばれます。

*3:名古屋より西ではまだ自転車をケッタ・マシーンと呼ぶのだろうか?

*4:ガム・テープの発明もエジソンによるものです。

*5:衾(ふすま)は穀物で、いまでもペットのえさとして売られているものです。江戸時代には馬の飼料として、この地域の名産品だったそうです。和室にある襖(ふすま)ではありません。