ちょっと時季を外したお話ですが…

昨日のお昼ごろ麻美からメールがありました。なんでもモノモライに遭ったらしく、今朝起きたら片まぶたが腫れて「お岩さん」のようになってしまったそうです。あの可愛らしい麻美ちゃんが…。想像すると笑えます(悪魔)

さて、お岩さんと言えば、鶴屋南北*1の書いたヒュ〜ドロドロの歌舞伎『東海道四谷怪談』が有名ですよね((( ;゜Д゜)))ガクガク
江戸に暮らす浪人・民谷伊右衛門の妻(=お岩)が旦那さんに毒を盛られて、見るも無惨な容貌に変わり果てて憤死した後、さっさと再婚をした不実な夫に祟るというアレですが、僕の周りにはどういうわけかアッチの世界の住人が見えると言う人がわりと多かったりします。
学生時代バイトしていた焼肉屋さんでは、キッチンでジョッキが勝手に動いて割れるなんて当たり前だったし…。ちなみに僕は極端に小指が短い*2「霊不感症」なので見たことはありまえんが、幽霊が割ったジョッキの代金が時給から引かれたのは今でも納得がいかないゾヽ(`Д´#)ノ

そんなわけで日々さまざまな目撃談を耳にするのですが、この夏よく聞いたのが「足のない幽霊」のお話。
え?幽霊なんだから足がなくて当然だろう?そんな事を思ったアナタ!(誰やねん?)そこのアナタっ!幽霊に足がないなんて外国人や歌舞好きの人に言ったら指差して笑われますよ!


なぜなら江戸時代の中ごろまでは、日本の幽霊にもちゃんと足があったのですから。「足のない幽霊」が広まったのは、江戸時代に『四谷怪談』『番町皿屋敷』などの怪談話が盛んになった頃からなのです。

この「足のない幽霊」の機嫌…もとい起源は、江戸時代中期の画家・円山応挙(まるやまおうきょ:1733-1795)が描いた下半身の薄ぼんやりとした幽霊画だと言われています。

その後、文政8年(1825)7月26日*3に、江戸の中村座で初演された『東海道四谷怪談』上演の時に、お岩さん役の初世尾上松助(後の松緑)が円山応挙の絵をヒントに足を隠して、宙づりの仕掛けを考え出して演じました。
そして、のちに三世尾上菊五郎(お岩役)、七世市川団十郎伊右衛門役)、五世松本幸四郎(直助役)というドリームメンバーでの上演が大好評を博し、一般的に「幽霊には足がない」と言うイメージが広まったようです( ´∀`)/~~

なんせ当時の歌舞伎狂言といったら庶民の娯楽の中心で、実際に起きた事件・事故がモチーフにされる事から、報道の中心でもあったわけで。その影響力は現在のテレビやネットを遥かに凌駕し、お馬の目の玉が飛び出しかねない勢いで「幽霊=足がない」説が拡散・浸透していったのです( `∀´)ノ

え?まだ信じられない?モノホン(死語?)の「足のない幽霊」を見た画家や作家が、それをそのまま書いたのかも知れないって?

いえいえ、そんな事はないのです。その証拠に世界ヒロシ…じゃなかった広しといえども足のない幽霊が登場する怪談を持っているのは日本くらいなものでしょう。逆に西洋には「巨大な足だけ」なんてゴーストに踏まれちゃうお話があるくらいですから(;´Д`)ゝ”

そんなわけで「幽霊には足がない」という常識は、あくまで歌舞伎狂言の演出進化の過程で生まれたものであって、もし周りに「幽霊を見た!そいつには足がなかった!」なんて事をまことしやかに語る人がいたら、心の中で「じつは見てないだろう」と思ってあげましょう。そして一人になったら叫びましょう。
幽霊にも足はあるゾ〜!!(笑)

あ、でもディズニーのキャスパーには足がない!たまに足が生えるけど、ふだんは足がないゾ。やっぱ足のない幽霊は実在するのかっ((((;゜Д゜)))ガクガクブルブル

*1:歌舞伎役者兼台本作者。五代目までいたが、有名なのは四代目南北(1755〜1829)で大南北と呼ばれた。江戸日本橋生まれ。三世の女婿に入り、1811年に襲名。着想と仕掛けの斬新さ、リアルな風俗描写は現代にも通じる。代表作は言わずと知れた『東海道四谷怪談

*2:小指が薬指の第一関節より長いくまで伸びてると「見える」そうです。

*3:正確には7月27日。絵本番付・辻番付・役割番付では26日。ちなみに7月26日は「幽霊の日」とされているそうです。